JOMON - SPIRAL
約5000年前、縄文文化の最盛期と言われる時代。人々は煮炊きに用いる土器に様々な紋様を施しました。中でも私が住む長野県朝日村で作られた多くの土器は単なる調理器具の装飾という域を越え、何かに突き動かされるように繰り返し螺旋紋様が描かれるようになります。彼らに執拗なまでに螺旋を描かせた動機は一体何だったのでしょうか?現代を生きる私たちの感覚とはかけ離れているようでも、彼らの奔放な螺旋表現からは確かな力が感じられます。しかし、その動機を想像し、いくら意味を理解しようとしても、言葉は行き場を失い、螺旋は沈黙に伏したままで答えてはくれません。5000年という時の渦のその果てに、私たち人間は一体何が変わり、何が変わらぬまま今日を生きているのでしょうか?
撮影の最中、土器に刻まれた紋様をいろんな角度からしばらく見ていると、時々ある部分が顔に見えてくることがあります。その表情は笑っているようでも、泣いているようでもある。どこか混乱しているようなそんな複雑な表情を見ていると、子供の頃、夜布団の中で自分はどこから生まれてきたのか、死んだらどうなるのかと考え始めて眠れなくなってしまったあの時の自分もこんな表情をしていたかもしれないと思うのです。そんな答えのない問いが浮かび上がっては着地地点を見出せないまま旋回しながら頭の中を飛んでいる。その軌跡がもしかしたら土器に刻まれた螺旋の正体なのかもしれません。