氏神遺跡
長野県の朝日村に引っ越して来て8年が経つ。特にこの数年間、自分が暮らすこの地に撮影のモチーフを求めて来たのだが、ある日、興味深い話が耳に入って来た。村が新たに計画する分譲住宅予定地で縄文土器の破片が見つかったため、発掘調査を行うというのだ。はやる気持ちを抑え、その発掘作業の現場を撮影したいと村に申し出たところ、快諾された。
遺跡の発掘作業はまず大型重機で大まかに掘り下げていくところから始まった。掘り下げるにつれて変化する地層の色が歴史を逆戻りしていることを物語る。そして、目標とする地層に近づいて来たあたりからは、手作業で慎重に表土を削っていく。土の色は本来各地層ごとにある一定の幅で推移していくものだが、時々そのパターンが不自然に曲がったりした箇所が出てくる。それが人間の生活の痕跡であり、すなわちそれは人が穴を掘った後である。住居の柱穴、かまど、そして墓。「人間は生活を営む上で穴を掘るんです。」調査官の方がそう言った。縄文土器のほとんどはそれらの穴から出土した。螺旋などの紋様が刻まれた土器のかけらが次第に目の前であらわになっていく瞬間に何度も立ち会い、夢中になってそれをフィルムに記録した。撮影の合間に顔を上げ、周りを見るとレタス畑や家々が見える。足元に現れた5000年前に生きていた人々の空間と、自分が生きている世界が今この瞬間同時に存在しているということが不思議でたまらなかった。
日々の野良仕事の合間に通い続けた四ヶ月に及ぶ発掘調査は終了し、先日発掘現場に残っていた最後の縄文の穴が重機によって埋められた。来年になればその上にアスファルトが敷かれ、新しい家が建てられる予定だ。